もしも日本がウォーキングデッドの世界になったら

もしも日本が海外ドラマ「ウォーキングデッド」の世界になったらという妄想終末世界ブログ。

5.生き抜く術

 

 

 

 

 

医者の声にハッと我にかえり

次に襲いかかってきたウォーカーを足で蹴り倒し

 

僕は立ち上がった。

 

 

女性に手を差し伸べるが、その手を振りはらい

彼女は再び父親の亡骸の元へと駆け出した。

 

 

 

それと同時に蹴り倒したウォーカーが、

這いつくばりながら駆け出した彼女の足を掴んだ。

 

 

足を掴まれ、彼女は転んでしまった。

 

 

 

ウォーカーが馬乗り状態になり今にも噛みつきそうだ。

 

 

 

 

「頭を狙え!」

 

 

他のウォーカーを対処している医者が叫んだ。

 

 

僕は無我夢中でシャベルを振りかざし

ウォーカーの頭を狙い、彼女から弾き飛ばした。

 

 

顔の骨が折れたのだろうか

ウォーカーの顔面は崩れてしまっている。

 

 

しかし、それでもなお体勢を立て直し再び向かってきたのだ。

 

 

 

 

全然きかないんだけど!!?

 

 

この数分の、酷い惨状の数々に

(自分から行動してるとはいえ)

 

僕は今にも吐きそうだった。

 

 

 

「殴るんじゃない!貫くんた!頭を!脳を!」

 

 

医者はそう言いながらビニール傘で

取っ組み合っていたウォーカーの頭を貫いた。

 

 

 

胃から戻ってくる菓子パンを

必死にこらえながら僕は

 

向かってくるウォーカーの額めがけて

 

 

思いっきりシャベルを突き立てた。

 

 

 

 

見事なまでに頭は輪切り状態になった。

 

 

 

 

無残な姿で倒れるウォーカーを見て

僕は嘔吐した。

 

 

 

 

「くそっ!!」

 

医者の使っていたビニール傘は折れてしまっていた。

 

シャベルひとつで残りのウォーカーを倒せるはずもなかった。

 

 

 

ここまでか、、、

 

 

その時、前方から車のクラクションが鳴り響いた。

 

止まることなくなり続けるクラクション。

 

誰かがわざと鳴らしているのか?

それとも、生き絶えた運転手がたまたまハンドルにもたれかかったので鳴ったのか、、、

 

 

 

とにかく、突然けたたましく鳴り出したクラクションの音に、人々も言葉を奪われた。

 

 

 

そして、そのクラクションに引き寄せられるように、

ウォーカーの群れがゾロゾロとクラクションの方向へと進路を変えて進み出した。

 

 

 

 

た、、、助かった、、、のか?

 

 

 

僕はその場に座り込んだ。

 

 

医者が近寄ってきた。

 

「なぜ、頭が急所だと?」

 

僕は聞いた。

 

医者は答えた。

 

「たまたまさ。君たちが襲われかけた時にとにかくどうにかしなければと、たまたま落ちてたビニール傘で、たまたま頭を狙っただけのこと。」

 

 

それで倒れたウォーカーを見て、

頭を貫く事が急所だとわかったんだな。

 

さすが医者だけある。頭の回転が早いな。

とっさにそれを把握して、僕にもアドバイスしてくれるなんて。

 

 

 

「いつ奴らが戻ってくるか分からない。とにかく高速道路から出よう。」

 

 

「なぜ、ウォーカーが突然高速道路上に現れたんだろう?」

 

 

「ウォーカー。奴らはウォーカーと言うのか。以前にも見た事が??」

 

 

「いいや、SNSで歩く様子だけ。一部だけ。まさか生きてる人を食うなんて、、、」

 

 

 

SNSの動画で【グロ注意】なんて書かれていたのはこう言うのだったのだろうか、、。

 

 

 

 

医者は、例の父親を失い悲しみにくれる女性に話しかけたを

 

「お父さんは残念だった。でも、この惨状を見なくて済んだ。とりあえず安全な場所に行こう。お父さんは僕らが運ぶよ。どこか綺麗なところで手厚く埋葬してあげよう、、。」

 

 

女性は涙ながらに頷き、自ら父親から離れ

医者に後を任せた。

 

 

「君、手伝ってくれ。」

 

医者に言われ、僕も彼女の父親の亡骸を運ぶのを手伝うことにした。

 

 

 

続々と、身を隠していた人たちが車から出てくる。

 

押し合いをしていた人々も、慌てて逃げるのをやめ冷静になり、怪我人の手当てや、怯える人を慰めだした。

 

 

 

僕の車に身を隠していた、中年の男も

気まずそうに出てきた。

 

「あんたのせいで死ぬとこだったんだぞ、、」

 

僕は男の胸ぐらを掴んだ。

 

温厚な性格だった昔の僕は

ウォーカーを目の当たりにした恐怖から、どこかへ行ってしまったみたいだ。

 

それは、僕だけでは無いらしい。

 

中年の男は僕の言葉に歯向いだした。

 

『血だらけの汚ねぇ手で触るな!その邪魔なジジイの死体も早く陸橋の下に捨ててしまえ!』

 

 

その言葉を聞いた、女性は再び泣き出してしまった。

 

 

とうとうキレた僕は男を殴った。

人を殴った事なんてないが、もう我慢ならなかったのだ。

 

そして、その倍以上の強さの拳で僕は殴り返された。

 

僕がよろけた隙に

男は僕と医者が支えていた亡骸を振り落とし、

 

僕を押し倒し再び殴ろうと拳をあげた

 

 

 

 

 

その瞬間、うなり声と骨が砕けるような鈍い音が聞こえた。

 

 

 

拳を上げたまま固まる男。

 

 

 

男の首筋に、女性の父親が噛み付いていた。

 

うなり声をあげ、男の首筋に食らいつく父親。

 

男は喉を潰されて声が出ないようだ。

目を見開き、痛みにのたうち回った。

 

 

 

誰もが何が起こったか理解するのに時間はかからなかった。

 

 

 

彼女の父親は

 

 

ウォーカーに転化していたのだ。

 

 

 

どんな死に方であれ

脳に損傷がない死人は、ウォーカーになる。

 

この時、知った。

 

 

 

 

 

 

男を貪り食い始めたウォーカーと化した父親の姿に

 

娘である彼女は叫んだ。

 

 

 

「いやああぁああーー!!!!」

 

 

 

 

 

再びざわめき出す高速道路の上。

 

医者が父親と男を引き離す。

 

 

父親の肩を掴み、動きを封じた。

ウォーカーと化した父親は、振りほどこうと

身をよじらせ、歯を鳴らした。

 

 

「早く!抑えてる今のうちに!頭を!」

 

 

 

そんなこと、、、僕には出来ない。

 

その父親の娘が見てる目の前で、、

 

 

シャベルなんかで頭を叩き割る??

 

 

無理だ。出来ない。

 

 

彼女の顔を見た。

 

目に涙をいっぱい溜め、

変わり果てた父親の姿と、状況の理解に苦しんでいるやような眼差しで光景を見ていた。

 

 

 

 

 

「はやく、、、、」

 

今にも医者に噛み付こうとする父親。

 

 

 

 

 

「や、、、やる、、、。私が、、、」

 

 

彼女がフラフラと近寄ってきた

 

 

 

「私が、、、私がああぁああ!!」

 

 

泣き叫びながら彼女は

シャベルを拾い上げ、父親めがけて振りかざした。

 

 

 

僕は彼女の腕を掴んだ。

 

 

「離して、、、お願い!!!」

 

「待った!」

 

 

 

「おい!俺が食われちまう!!」

 

医者は抑えるのにもう力の限界がきている。

 

 

「あと少し耐えて!!」

 

医者に詫びると同時に僕は彼女に言った

 

 

「いくらウォーカーでも、父親だ。そんな大きいのはあまりにも惨すぎるよ、、」

 

 

開け放しで道路上に放置していた自分のキャリーケースから

 

タオルに包んでいた、包丁を

彼女に差し出した。

 

 

 

自分でもよく分かってなかった。

 

自分の親を終わらせるのに

 

武器の大小もない。

辛いことに変わりはないって。

 

 

でも包丁をキャリーケースに入れたことを思い出し、身体がとっさに動いたんだ。

 

 

この時、僕は自分が涙を流している事に気付いてなかった。

 

 

 

 

 

包丁を受け取った彼女は、

ゆっくり父親の背後に近づいた。

 

 

 

父親を抑えながら、医者はこう言った

 

「耳の後ろ顎の下あたりを狙え、、。そこなら力はいらない。お父さんも一瞬で、楽に逝ける、、」

 

 

 

 

彼女は医者の指示通りに、

自らの手で父親を終わらせてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡くなった人に最後の処置をする人。

 

車の中で放心状態の人。

 

荷物をまとめ車の隙間を縫って歩き出す人。

 

 

少しだけど、この世界の対処方法を学んで

落ち着きを取り戻していた。

 

 

 

一通り付近の怪我人への応急処置を済ませた医者。

そして僕と女性の3人は

 

 

タオルケットに包んだ

彼女の父親を担いで歩き出した。

 

 

 

空はすでにオレンジ色に染まっていた。