もしも日本がウォーキングデッドの世界になったら

もしも日本が海外ドラマ「ウォーキングデッド」の世界になったらという妄想終末世界ブログ。

4.白昼の悪夢

 

 

 

 

およそ50メートル。

ここまで来るのも時間の問題だろう。

 

 

急いで後ろの方へ逃げるべきなのに

 

 

誰も動かない。

 

 

僕もそうだ。動けないのだ。

 

 

足が竦むとはこの事なのか。

 

向こうに見える、見た事も無い異様な光景に

誰もが息を飲んで凝視していた。

 

 

一体、二体、三体、、、、

 

逃げる人を追って、よろよろと早歩きくらいの速度の歩みでこちらへ近づいてくるウォーカーの群れ。

 

 

 

(この「体」の数え方に違和感はなかった。人を貪り食う奴らはすでに、「人」では無いような気がするんだ。)

 

 

 

 

前方から逃げてきた人が、僕らの列まで辿りついた。

 

逃げてきた人たちの顔や服は

誰のかわからない血飛沫を浴びていた。

 

 

噛まれたのだろうか?

血の流れる足や腕を抑えてなんとか逃げる人も。

 

 

 

 

逃げてきた彼らのその姿を見て

 

車の上で呆然としていた僕らもようやく

慌てて車の上から飛び降りた。

 

 

 

 

すでに何体かのウォーカーは20メートル

そこらまで近づいて来ている。

 

 

後方へ逃げようとしたものの、

車と車の間はすでに逃げる人たちで押し合いになり

とてもかき分けて進める状態ではなかった。

 

 

さらに運悪く、僕らが立ち往生していた場所は

 

 

ちょうど陸橋の上で、左右に逃げ道はなかったのだ。

 

 

 

 

誰の車関係なく、付近の車の中に隠れようとする人たちでパニックだ。

 

 

僕は自分の車に入ろうとしたが、

 

すでに数人が僕の車に入り込みドアにロックがかけられていた。

 

 

 

 

「何してんだ!?人の車に!!開けろ!!!クソが!!!」

 

ドアを叩きながら僕は叫んだ。

 

 

 

こんなに声を張り上げたのも、荒々しい言葉遣いをしたのも

力一杯に物を叩いたのも初めてだった。

 

 

ほかの車に乗っている人に頼んでも

 

 

車内の人はもう聞く耳も持たず、

下を向いてうずくまってしまっていた。

 

 

 

 

近くの車は全て定員オーバーのようだ。

 

 

 

前方は約10メートルまでウォーカーが迫り

 

 

後方は逃げる人々ですし詰め状態。

 

 

 

 

恐怖に耐えきれず、

陸橋から飛び降りる者まで現れた。

 

 

 

 

 

ウォーカーに食われる前に、

人に押され窒息死してしまいそうだ。

 

 

 

 

 

振り返ると

 

 

5メートル。

 

 

 

迫り来るウォーカーと

人混みの間にぽっかり空いた地面に

 

うずくまる女性が見えた。

 

 

 

さっきの父親を亡くした娘さんだ。

 

 

この騒ぎに何も反応せず。

まだ、父親の亡骸を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

彼女を目がけ、一体のウォーカーが迫っていた。

 

 

 

 

 

どうせ死ぬなら!

 

 

僕は人の流れに逆らって

ウォーカーの方へ駆け出した。

 

 

 

彼女の近くに放り出したままだった

雪かきシャベルを拾い上げ

 

 

 

 

襲いかかるウォーカーの腹に突き立てた。

 

 

 

 

シャベルの柄伝いになんとも不快な感触が伝わってきた。

 

 

 

ウォーカーがよろめいた隙に

彼女の腕を掴んで引き寄せた。

 

 

 

「やめて!離してください!!お父さんが!」

 

 

 

そう叫ぶ女性に僕は叫び返した。

 

 

「もう死んでるんだ!!!君も死ぬぞ!」

 

 

 

 

 

その時、腹を突き刺したはずのウォーカーが

 

再び僕ら目がけて襲いかかってきた。

 

 

 

 

腕を伸ばし掴もうとしてくるウォーカーを

 

車にもたれながら、シャベルでガードする。

 

 

 

 

 

その時、車内に隠れている中年男性と目があった。

 

 

僕は、再度、車内の男性に向かって

 

「助けて!入れてくれ!!」と叫んだ。

 

 

 

 

 

男性は聞こえてないかのように、そっと顔を伏せた。

 

 

 

 

 

僕は

右手のシャベルでウォーカーをガード、

左手で助けた彼女をぐっとかばうのが精一杯だった。

 

 

 

 

ガードしているシャベルは

 

 

ズブズブと気色の悪い音を立てながら

 

ウォーカーの腹にめり込んでいく。

 

 

 

めり込む度に近づいてくる

ウォーカーの顔。

 

 

 

 

 

「終わった。」

 

 

僕はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、

 

 

僕の顔に食らいつこうとする

 

ウォーカーの頭部を貫いて

 

ウォーカーの目からビニール傘の先端が飛び出した。

 

 

 

 

ウォーカーはついに倒れこんで動かなくなった。

 

 

 

 

倒れたウォーカーの後ろには

 

 

僕のビニール傘を持った、

先ほどの医者が立っていた。

 

 

 

血飛沫を顔に浴びながらも呆然とする僕に

 

 

医者は言った。

 

 

 

 

 

「急げ、次が来るぞ。」