もしも日本がウォーキングデッドの世界になったら

もしも日本が海外ドラマ「ウォーキングデッド」の世界になったらという妄想終末世界ブログ。

6.目的地

 

 

 

高速道路の陸橋を渡り終わると
急な斜面を登れば山へと繋がっていた。

 

3人で協力し、女性の父親の遺体を斜面の上まで無事に運ぶ事に成功した。

 

山に繋がる斜面の上から

今にも沈む夕日が見えた。


オレンジ色の空が
ピンクから紫色へとグラデーションのようになっていた。

 


「綺麗、、、」

女性はつぶやいた。

 

「ここに、、お父さんを埋葬しようかな。」

 

物悲しげに、でも、どこか決心したような強い意志を感じる。

僕らに始めて、彼女が微笑んだ顔を見せた瞬間だった。

 

 


「いいの?ここで。故郷とか、思い出の場所とかの方が、、」


僕は問いかけた。

 

「俺たちは君の望むとこまで、お父さんを運ぶのを手伝うよ。」


続けて医者の彼もそう言った。

 

 

「ううん、ここでいい。これ以上お二人に負担かけたくないし、、。ここがいいです!眺めも良いし、すごく夕焼けも綺麗。田んぼがキラキラ光ってる。その向こうに海も見えるので。」


彼女はさらに微笑んで言った。


「お父さんは、漁師だったんです。海がとても好きでした。でも、持病の悪化で定年を前に仕事を辞めなきゃならなくて。」


少し涙ぐんで続けた。


「私が中学生の頃にお母さんが死んじゃって、それからずっと男手一つで私とお兄ちゃんを育ててくれた。」

 

 


僕たちは彼女の話に、時折、頷きながら聞いてあげた。

 


「あ、ごめんなさい。長々と。夜になって暗くなっちゃいますね。」

 

彼女は話を終わらせ、シャベルで地面を掘り始めた。

 


僕たちが掘るから、休んでてと言ったが
彼女は自分も手伝いたいと言った。


ひとつのシャベルで、交代しながら穴を掘り続けた。

 

 

掘り終わる頃にはすっかり
真っ暗になっていた。


医者の荷物の中にあった
ランタンの光が照らす中、

 

付近に生えていた花をお墓の前に添え、
僕たちは手を合わせた。

 

 

 

「夜に山の中を歩き回るのは危険だ。今夜はここで夜を明かそう。」


医者の提案に、2人とも頷いた。

 

 

 

僕たちは円になってランタンを囲み、
僕が持ってきた菓子パンや缶詰を食べながら話した。

 

 


そういえば、まだ自己紹介もしておらず
名前も知らなかった事に気付き


簡単な自己紹介と、
これからの自分の目的地について各自話す事にした。

 

 


まずは僕から

 

名前は、倉井リク。31歳。
職業は、自動車整備士

目的地は、ここから60キロ先くらいの実家。

 

 

 

続いて、医者。


名前は、里嗣レン。34歳。
職業は、外科医。

政府からの通達により病院の閉鎖、患者たちは自衛隊の協力で避難場所へと輸送された。

その後、荷造りのため一時帰宅した後、政府関係、自衛隊との連絡が途絶えた。

目的地は、患者たちが輸送されたであろう避難場所。

 

 

 

そして、女性


名前は、春定カオル。26歳。
職業は、調理師。

目的地は、自衛隊の兄がいる避難場所。

 

 

 


それから僕らは色々語り合った。

 

 

年齢がわかるとどうしても敬語になるし、最初は苗字に「さん」付けで呼んでたけど、


1番年上であるレンが
敬語もやめて、下の名前で呼び合おうと提案した。

 

 

今日目の当たりにした光景。
この世界で生き抜くには、仲間が必要だ。

 

そして、できる限り目的地に到着するまで協力し合うこと。

 


幸いな事に、レンとカオルの向かう避難場所は同じ所のようだし、

さらに僕の実家もその避難場所から10キロも離れていない場所だった。

 

 

実家が避難場所に近い事から、
僕の両親はその避難場所に避難している可能性も高い。

だから僕も最初にその避難場所に行って、両親を探す事にしよう。

 

 

 

 

今日はとてつもなく長い一日だった。


見たこともない惨状の後だから
今夜は眠れそうも無いと思っていたけど、

2人との会話で少しだけ安心したような。


眠くなってきたからそろそろ寝ることにしよう。

 

 

睡眠は、2人が寝てる間に1人が見張り。
それを2時間交代にする事にした。

 

 

明日はどんな日になるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

5.生き抜く術

 

 

 

 

 

医者の声にハッと我にかえり

次に襲いかかってきたウォーカーを足で蹴り倒し

 

僕は立ち上がった。

 

 

女性に手を差し伸べるが、その手を振りはらい

彼女は再び父親の亡骸の元へと駆け出した。

 

 

 

それと同時に蹴り倒したウォーカーが、

這いつくばりながら駆け出した彼女の足を掴んだ。

 

 

足を掴まれ、彼女は転んでしまった。

 

 

 

ウォーカーが馬乗り状態になり今にも噛みつきそうだ。

 

 

 

 

「頭を狙え!」

 

 

他のウォーカーを対処している医者が叫んだ。

 

 

僕は無我夢中でシャベルを振りかざし

ウォーカーの頭を狙い、彼女から弾き飛ばした。

 

 

顔の骨が折れたのだろうか

ウォーカーの顔面は崩れてしまっている。

 

 

しかし、それでもなお体勢を立て直し再び向かってきたのだ。

 

 

 

 

全然きかないんだけど!!?

 

 

この数分の、酷い惨状の数々に

(自分から行動してるとはいえ)

 

僕は今にも吐きそうだった。

 

 

 

「殴るんじゃない!貫くんた!頭を!脳を!」

 

 

医者はそう言いながらビニール傘で

取っ組み合っていたウォーカーの頭を貫いた。

 

 

 

胃から戻ってくる菓子パンを

必死にこらえながら僕は

 

向かってくるウォーカーの額めがけて

 

 

思いっきりシャベルを突き立てた。

 

 

 

 

見事なまでに頭は輪切り状態になった。

 

 

 

 

無残な姿で倒れるウォーカーを見て

僕は嘔吐した。

 

 

 

 

「くそっ!!」

 

医者の使っていたビニール傘は折れてしまっていた。

 

シャベルひとつで残りのウォーカーを倒せるはずもなかった。

 

 

 

ここまでか、、、

 

 

その時、前方から車のクラクションが鳴り響いた。

 

止まることなくなり続けるクラクション。

 

誰かがわざと鳴らしているのか?

それとも、生き絶えた運転手がたまたまハンドルにもたれかかったので鳴ったのか、、、

 

 

 

とにかく、突然けたたましく鳴り出したクラクションの音に、人々も言葉を奪われた。

 

 

 

そして、そのクラクションに引き寄せられるように、

ウォーカーの群れがゾロゾロとクラクションの方向へと進路を変えて進み出した。

 

 

 

 

た、、、助かった、、、のか?

 

 

 

僕はその場に座り込んだ。

 

 

医者が近寄ってきた。

 

「なぜ、頭が急所だと?」

 

僕は聞いた。

 

医者は答えた。

 

「たまたまさ。君たちが襲われかけた時にとにかくどうにかしなければと、たまたま落ちてたビニール傘で、たまたま頭を狙っただけのこと。」

 

 

それで倒れたウォーカーを見て、

頭を貫く事が急所だとわかったんだな。

 

さすが医者だけある。頭の回転が早いな。

とっさにそれを把握して、僕にもアドバイスしてくれるなんて。

 

 

 

「いつ奴らが戻ってくるか分からない。とにかく高速道路から出よう。」

 

 

「なぜ、ウォーカーが突然高速道路上に現れたんだろう?」

 

 

「ウォーカー。奴らはウォーカーと言うのか。以前にも見た事が??」

 

 

「いいや、SNSで歩く様子だけ。一部だけ。まさか生きてる人を食うなんて、、、」

 

 

 

SNSの動画で【グロ注意】なんて書かれていたのはこう言うのだったのだろうか、、。

 

 

 

 

医者は、例の父親を失い悲しみにくれる女性に話しかけたを

 

「お父さんは残念だった。でも、この惨状を見なくて済んだ。とりあえず安全な場所に行こう。お父さんは僕らが運ぶよ。どこか綺麗なところで手厚く埋葬してあげよう、、。」

 

 

女性は涙ながらに頷き、自ら父親から離れ

医者に後を任せた。

 

 

「君、手伝ってくれ。」

 

医者に言われ、僕も彼女の父親の亡骸を運ぶのを手伝うことにした。

 

 

 

続々と、身を隠していた人たちが車から出てくる。

 

押し合いをしていた人々も、慌てて逃げるのをやめ冷静になり、怪我人の手当てや、怯える人を慰めだした。

 

 

 

僕の車に身を隠していた、中年の男も

気まずそうに出てきた。

 

「あんたのせいで死ぬとこだったんだぞ、、」

 

僕は男の胸ぐらを掴んだ。

 

温厚な性格だった昔の僕は

ウォーカーを目の当たりにした恐怖から、どこかへ行ってしまったみたいだ。

 

それは、僕だけでは無いらしい。

 

中年の男は僕の言葉に歯向いだした。

 

『血だらけの汚ねぇ手で触るな!その邪魔なジジイの死体も早く陸橋の下に捨ててしまえ!』

 

 

その言葉を聞いた、女性は再び泣き出してしまった。

 

 

とうとうキレた僕は男を殴った。

人を殴った事なんてないが、もう我慢ならなかったのだ。

 

そして、その倍以上の強さの拳で僕は殴り返された。

 

僕がよろけた隙に

男は僕と医者が支えていた亡骸を振り落とし、

 

僕を押し倒し再び殴ろうと拳をあげた

 

 

 

 

 

その瞬間、うなり声と骨が砕けるような鈍い音が聞こえた。

 

 

 

拳を上げたまま固まる男。

 

 

 

男の首筋に、女性の父親が噛み付いていた。

 

うなり声をあげ、男の首筋に食らいつく父親。

 

男は喉を潰されて声が出ないようだ。

目を見開き、痛みにのたうち回った。

 

 

 

誰もが何が起こったか理解するのに時間はかからなかった。

 

 

 

彼女の父親は

 

 

ウォーカーに転化していたのだ。

 

 

 

どんな死に方であれ

脳に損傷がない死人は、ウォーカーになる。

 

この時、知った。

 

 

 

 

 

 

男を貪り食い始めたウォーカーと化した父親の姿に

 

娘である彼女は叫んだ。

 

 

 

「いやああぁああーー!!!!」

 

 

 

 

 

再びざわめき出す高速道路の上。

 

医者が父親と男を引き離す。

 

 

父親の肩を掴み、動きを封じた。

ウォーカーと化した父親は、振りほどこうと

身をよじらせ、歯を鳴らした。

 

 

「早く!抑えてる今のうちに!頭を!」

 

 

 

そんなこと、、、僕には出来ない。

 

その父親の娘が見てる目の前で、、

 

 

シャベルなんかで頭を叩き割る??

 

 

無理だ。出来ない。

 

 

彼女の顔を見た。

 

目に涙をいっぱい溜め、

変わり果てた父親の姿と、状況の理解に苦しんでいるやような眼差しで光景を見ていた。

 

 

 

 

 

「はやく、、、、」

 

今にも医者に噛み付こうとする父親。

 

 

 

 

 

「や、、、やる、、、。私が、、、」

 

 

彼女がフラフラと近寄ってきた

 

 

 

「私が、、、私がああぁああ!!」

 

 

泣き叫びながら彼女は

シャベルを拾い上げ、父親めがけて振りかざした。

 

 

 

僕は彼女の腕を掴んだ。

 

 

「離して、、、お願い!!!」

 

「待った!」

 

 

 

「おい!俺が食われちまう!!」

 

医者は抑えるのにもう力の限界がきている。

 

 

「あと少し耐えて!!」

 

医者に詫びると同時に僕は彼女に言った

 

 

「いくらウォーカーでも、父親だ。そんな大きいのはあまりにも惨すぎるよ、、」

 

 

開け放しで道路上に放置していた自分のキャリーケースから

 

タオルに包んでいた、包丁を

彼女に差し出した。

 

 

 

自分でもよく分かってなかった。

 

自分の親を終わらせるのに

 

武器の大小もない。

辛いことに変わりはないって。

 

 

でも包丁をキャリーケースに入れたことを思い出し、身体がとっさに動いたんだ。

 

 

この時、僕は自分が涙を流している事に気付いてなかった。

 

 

 

 

 

包丁を受け取った彼女は、

ゆっくり父親の背後に近づいた。

 

 

 

父親を抑えながら、医者はこう言った

 

「耳の後ろ顎の下あたりを狙え、、。そこなら力はいらない。お父さんも一瞬で、楽に逝ける、、」

 

 

 

 

彼女は医者の指示通りに、

自らの手で父親を終わらせてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡くなった人に最後の処置をする人。

 

車の中で放心状態の人。

 

荷物をまとめ車の隙間を縫って歩き出す人。

 

 

少しだけど、この世界の対処方法を学んで

落ち着きを取り戻していた。

 

 

 

一通り付近の怪我人への応急処置を済ませた医者。

そして僕と女性の3人は

 

 

タオルケットに包んだ

彼女の父親を担いで歩き出した。

 

 

 

空はすでにオレンジ色に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

4.白昼の悪夢

 

 

 

 

およそ50メートル。

ここまで来るのも時間の問題だろう。

 

 

急いで後ろの方へ逃げるべきなのに

 

 

誰も動かない。

 

 

僕もそうだ。動けないのだ。

 

 

足が竦むとはこの事なのか。

 

向こうに見える、見た事も無い異様な光景に

誰もが息を飲んで凝視していた。

 

 

一体、二体、三体、、、、

 

逃げる人を追って、よろよろと早歩きくらいの速度の歩みでこちらへ近づいてくるウォーカーの群れ。

 

 

 

(この「体」の数え方に違和感はなかった。人を貪り食う奴らはすでに、「人」では無いような気がするんだ。)

 

 

 

 

前方から逃げてきた人が、僕らの列まで辿りついた。

 

逃げてきた人たちの顔や服は

誰のかわからない血飛沫を浴びていた。

 

 

噛まれたのだろうか?

血の流れる足や腕を抑えてなんとか逃げる人も。

 

 

 

 

逃げてきた彼らのその姿を見て

 

車の上で呆然としていた僕らもようやく

慌てて車の上から飛び降りた。

 

 

 

 

すでに何体かのウォーカーは20メートル

そこらまで近づいて来ている。

 

 

後方へ逃げようとしたものの、

車と車の間はすでに逃げる人たちで押し合いになり

とてもかき分けて進める状態ではなかった。

 

 

さらに運悪く、僕らが立ち往生していた場所は

 

 

ちょうど陸橋の上で、左右に逃げ道はなかったのだ。

 

 

 

 

誰の車関係なく、付近の車の中に隠れようとする人たちでパニックだ。

 

 

僕は自分の車に入ろうとしたが、

 

すでに数人が僕の車に入り込みドアにロックがかけられていた。

 

 

 

 

「何してんだ!?人の車に!!開けろ!!!クソが!!!」

 

ドアを叩きながら僕は叫んだ。

 

 

 

こんなに声を張り上げたのも、荒々しい言葉遣いをしたのも

力一杯に物を叩いたのも初めてだった。

 

 

ほかの車に乗っている人に頼んでも

 

 

車内の人はもう聞く耳も持たず、

下を向いてうずくまってしまっていた。

 

 

 

 

近くの車は全て定員オーバーのようだ。

 

 

 

前方は約10メートルまでウォーカーが迫り

 

 

後方は逃げる人々ですし詰め状態。

 

 

 

 

恐怖に耐えきれず、

陸橋から飛び降りる者まで現れた。

 

 

 

 

 

ウォーカーに食われる前に、

人に押され窒息死してしまいそうだ。

 

 

 

 

 

振り返ると

 

 

5メートル。

 

 

 

迫り来るウォーカーと

人混みの間にぽっかり空いた地面に

 

うずくまる女性が見えた。

 

 

 

さっきの父親を亡くした娘さんだ。

 

 

この騒ぎに何も反応せず。

まだ、父親の亡骸を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

彼女を目がけ、一体のウォーカーが迫っていた。

 

 

 

 

 

どうせ死ぬなら!

 

 

僕は人の流れに逆らって

ウォーカーの方へ駆け出した。

 

 

 

彼女の近くに放り出したままだった

雪かきシャベルを拾い上げ

 

 

 

 

襲いかかるウォーカーの腹に突き立てた。

 

 

 

 

シャベルの柄伝いになんとも不快な感触が伝わってきた。

 

 

 

ウォーカーがよろめいた隙に

彼女の腕を掴んで引き寄せた。

 

 

 

「やめて!離してください!!お父さんが!」

 

 

 

そう叫ぶ女性に僕は叫び返した。

 

 

「もう死んでるんだ!!!君も死ぬぞ!」

 

 

 

 

 

その時、腹を突き刺したはずのウォーカーが

 

再び僕ら目がけて襲いかかってきた。

 

 

 

 

腕を伸ばし掴もうとしてくるウォーカーを

 

車にもたれながら、シャベルでガードする。

 

 

 

 

 

その時、車内に隠れている中年男性と目があった。

 

 

僕は、再度、車内の男性に向かって

 

「助けて!入れてくれ!!」と叫んだ。

 

 

 

 

 

男性は聞こえてないかのように、そっと顔を伏せた。

 

 

 

 

 

僕は

右手のシャベルでウォーカーをガード、

左手で助けた彼女をぐっとかばうのが精一杯だった。

 

 

 

 

ガードしているシャベルは

 

 

ズブズブと気色の悪い音を立てながら

 

ウォーカーの腹にめり込んでいく。

 

 

 

めり込む度に近づいてくる

ウォーカーの顔。

 

 

 

 

 

「終わった。」

 

 

僕はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、

 

 

僕の顔に食らいつこうとする

 

ウォーカーの頭部を貫いて

 

ウォーカーの目からビニール傘の先端が飛び出した。

 

 

 

 

ウォーカーはついに倒れこんで動かなくなった。

 

 

 

 

倒れたウォーカーの後ろには

 

 

僕のビニール傘を持った、

先ほどの医者が立っていた。

 

 

 

血飛沫を顔に浴びながらも呆然とする僕に

 

 

医者は言った。

 

 

 

 

 

「急げ、次が来るぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

3.赤への行列

 

 

 

 

大混乱で立ち往生する高速道路。

 

 

車の中で僕は後悔していた、

どうせ渋滞に巻き込まれるなら

 

まだ警察や自衛隊が先導・指揮していた

2日前に避難しておけばよかった、、、と。

 

 

 

 

何人もの人が車を出て道路上で

言い争いをしたり、嘆いている。

 

 

 

そんな中、2台前の車から

20代くらいの女性が60代くらいの男性を抱えて出てきた。

 

親子だろうか。

男性はぐったりしていて意識が無いようだ。

 

 

女性は慌てた様子で、父親らしき男性を道路上に寝かせ

必死で父親の体を揺さぶっている。

 

 

「お父さん!しっかりして!」

 

 

叫ぶ声に近くの人たちも気づき、集まってきた。

 

 

 

医療のことなんか全くわからなく何ができるわけでも無い僕も居てもたっても居れず、車から降りた。

 

 

 

 

後部座席の雪かきシャベルとビニール傘を放り出し、

その下にあったキャリーケースを取り出した。

 

 

道路の上にケース広げて

奥に押し込んでいたタオルケットを出して

倒れている男性の下に敷いてあげた。

 

僕にはそれしか出来ず。あとは見守ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「そこ通して!」

 

 

 

野次馬をかき分けて、

僕と同年代くらいだろうか?

男性が親子の元に駆け寄ってきた。

 

 

どうやら彼は医者らしい。

 

てきぱきと脈をとったり応急処置やら何やらしている。

 

 

 

近くに医者が立ち往生していてよかったなぁ

 

 

なんて、すっかり病人も助かるもんだと

呑気なことを思っていたが、、、

 

 

医者がすっと立ち上がり

近くで見守っていた娘さんの肩に

ぽんと手を置き、俯いて何かを伝えた。

 

 

その瞬間、娘さんは泣き崩れ父親の元へ駆け寄った。

 

 

誰もが状況を理解した。

 

彼女の父親はすでに亡くなっていた。

 

 

 

どうやら持病が原因だったらしい。

 

 

 

 

 

亡き父親に抱きつき

声もなく泣き続ける娘。

 

 

誰もがかける言葉もなく

静まりかえる。重々しい空気が流れる。

 

 

 

 

この事態に気づいていない数十メートル先の人たちの

相変わらずの怒号とクラクションだけが異様に大きく聞こえた。

 

 

 

 

その時、

その騒音さえもピタッと止まった。

 

 

 

そして、さっきの怒号混じりの騒音とは違う

 

 

ざわざわとどよめきだした。

 

 

 

どよめきは、叫び声に変わった。

 

 

 

 

数十メートル先で何かが起きている。

 

 

 

 

僕の周囲の人たちみんな何事かと

叫びの聞こえる前方に目を凝らした。

 

 

車の列でよく見えない。

 

 

 

一人の男性が、車の上によじ登り

 

 

様子を眺めだした。

 

 

 

「、、、、ウ、、ウォーカー、、、、?」

 

 

 

 

その呼び名をSNSで知っていた人たちは騒めき出し、

 

何人かが同じく車に登り、スマホを取り出し

数十メートル先の「ウォーカー」を動画撮影しだした。

 

 

 

「ヤベ!マジ!?あれ本物?すげえ!」

 

 

 

動物園で珍しい生き物を見るかのように

彼らは撮影を続ける。

 

 

 

 

「ウォーカー」の名を知らない者たちは

何がなんだかわからず不安な表情を浮かべている。

 

 

僕を含め、「ウォーカー」の名を知っている者も

 

この時は全てを知っていたわけでは無かった。

 

 

 

 

 

ただの「歩く屍」。

 

 

 

しかし、実際は

「歩く」だけではなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『食ってる、、、、、』

 

 

 

 

 

 

そう言い、車の上で撮影していた若者が

青ざめた表情でスマホを下ろし撮影をやめた。

 

 

 

その場にい全員、車のボンネットの上に登って

 

向こうの様子を見た。

 

 

 

 

 

目を疑うような光景。

 

 

 

 

数十メートル先、いや、それよりもっと

数百メートル先、カーブで見えなくなるまで

きっとそれより先も

 

 

 

車の列と道路はみるみるうちにと

真っ赤に染まっていく。

 

 

 

 

無数のウォーカーが次々に

逃げ惑う人に食らいついている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.迫り来る恐怖

 

 

 

実家までは100km弱。

車なら約1時間半ほどだ。

 

避難する人たちの渋滞のピークは
2日前~昨日として

 

でもまあ、この事態だし。
外はクラクションも聞こえるし。

僕のように避難を遅らせた人もいるかも。

 

まだ市内や高速道路は若干渋滞していると踏んで


到着に最悪夕方までかかることは覚悟しておいた方がいいかなと思っていた。

 


この時は。

 

 

 

 


まず

この数日の危うい状況から察して
あらかじめ買い溜めしていた保存食やペットボトル飲料と
常備食の菓子パンや晩酌用のつまみ菓子を。

 


温くなった冷蔵庫から
飲みかけのお茶、実家に帰ってからゆっくり飲もうと缶ビールを取り出してリュックに入れた。

 


こういう時、独身一人暮らし男の冷蔵庫は
処分しておくべき生ものが少なくて助かる。

 

 

その他にも
数日分の着替え、歯磨きや洗顔料、
使えないとわかっているけど、いつ復旧しても良いようにスマホと充電器も。

といったいわゆる「お泊りセット」。

 

電気などが復旧するまで必要だろうから
懐中電灯とライターも。


通帳や印鑑、財布などの貴重品も入れた。

 

 


そして半信半疑ではあるが
SNSなどで事前に知った事態の状況から
念のため「武器」となるようなものとして、


包丁をタオルで包んだ。

 


すでにいっぱいになったリュックは諦め

これらはキャリーケースに詰めた。

 

 

 

 

玄関から出る前に、下駄箱に立てかけてある

ビニール傘と、埃をかぶったシャベル(東日本の方じゃ「スコップ」らしいけど、、)

ま、とにかく、傘と雪かき用(西日本の雪国と言われる地域の必需品)の鉄製のシャベルをなんとなく手に取った。

 

 

 


アパートのドアを開けた。

窓ガラス越しに遠く聞こえていたクラクションの音が、少し大きく聞こえた。

 

 


大荷物を車の後部座席やトランクへ入れ、
いざ帰路へと車を発進させた。

 

 

 

 

運転しながら様々な光景が見えた。


ここぞとばかりに、儲けようとお店を開けている個人商店。
買い求めるためにそれに並ぶ人たち。

 

コンビニや少し大きなスーパーマーケットは
閉店しているようだが、店内の様子を伺うように店外をうろつく人たち。


中には、ガラスが割られ、品薄の店もあった。

焦った人たちの接触事故や言い争いの喧嘩。

 

たった2、3日で物騒な街になってしまったようだ。

 


そんな物々しい街中でも、出動している警察の姿はなかった。

 

 

いくつかの小さな渋滞を抜けて
ようやく高速道路の入り口が近づいた。

 

インターチェンジはETCも発券機も機能しておらず、素通り状態のようだ。

 


いいのかな?
と、なんとなく不安になりながらも
車を走らせ続けた。

 

 

 


順調に高速道路を進んでいたが、

突然大渋滞に捕まってしまった。

 


無理矢理、反対車線にUターンする車まで現れ

そのうち、反対車線までも渋滞となった。

 


10分20分、1時間、2時間経ってもほぼ動かない車の列。

 


しびれを切らした人々が、車から出て来て

先の方の様子を伺ったり、
車を残し、荷物だけ持って車の隙間をぬって高速道路を歩き進み出す人まで。

 


数時間車内に閉じ込められたことで
体調を悪くする人。


持病の発作で倒れる人。
それを助けようとする人。

 

 


混乱の渦は次第に大きくなり


怒号やクラクションが鳴り響く。

 

 

 

 


そして、怒号はいつしか

悲鳴や叫び声に変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

1.不可解な日常

 

 

 


今日から毎日の出来事を書いていこうと思う。


なぜそんな事しようと思ったか?

 

この状況。この狂った日常。

何となく書き残した方がいいかなって。

 

 

 

 

 

 

海の向こうのアメリカやヨーロッパとか

海外の方では、不可解な事が起きていた。

 

 

 

事の発端は
アメリカの人がSNSに投稿したある事件の動画。


高速道路で発狂(?)した人が警察に囲まれて

そんで撃たれた。

何発も。

 

でも、その撃たれた人は倒れない。

銃で撃たれても向かってくる。
そして警察に襲いかかった。

 


という内容の動画。


それを始まりに、似たような動画が何件もSNSYouTubeに投稿され始めた。

 


それらの「撃っても死なない、発狂して歩き続ける人たち」

 

 

中には、

 

彼らはすでに死んでる。歩く屍だ。

 

なんて言う人まで。

 

 

いつしかその歩く屍は

 

 

『ウォーカー』

 

 

と呼ばれるようになっていた。

 

 

 

死人が歩くとか。笑

 

 

 

 

最初は僕は

まあ、海外の事だし
CGとか特殊メイクとか

手の込んだイタズラ動画?


と思っていた。

 

 


そのうち、ニュース番組でも取り上げられ
本当の出来事なんだと知った。

 

まだどこか

海外って怖いな。物騒だな。


くらいにしか感じていなかった。

 

 

 

 

でも、程なくして東京など都会の方で
同じ事件が起こった。

 

海外と同様にネットは
同じような動画やコメントで溢れた。

 


中には、【グロ注意】なんて前置きされた動画まで。


そんな前置きされたら絶対に見たくないから
僕は見ていない。

 

 

そして
瞬く間に『ウォーカー』は広がった。

 

 

らしい。

 

 

らしいと言うのも、その頃は僕は

まだそれらの光景を実際には見たこと無いからだ。

 

何かよくわからない事が起きてる。

 

同じように、この地域の住人はそれしか知らない。

 

 

 

 

 

 


そして自体の収拾をとついに自衛隊が出動。

自衛隊の作業は
マスコミは完全シャットアウトされ


何が行われているのかわからない日々。

 

 

 

それでも、僕が住むような
山や海が近く自然豊かな田舎と呼べる小さな街は、

都会の騒動が嘘のように日常が続いていた。

 

 

 

 

しかし、ついに
日本全国に「避難・警戒命令」が発令された。

「自分の生命を最大限守る努力を、、」

だってさ。

 

 

各地の自衛隊が運営する

仮設の避難場所の名前が読み上げられ

 


警報と共に、それを最後に全テレビ放送、ラジオ放送は終了。


空港も閉鎖。

 

 

 

日本全国に避難命令って、、避難場所足りるのかよ、、。

 

呑気な性格のせいで、田舎と言えど田舎だからこその車社会。

渋滞を懸念して避難を遅らせようとして、まだここにいるわけで、、。

 

 

 

そうそう


当然、会社やお店、学校は休みに。


田舎もついにパニック状態ですよ。

 

 

 

 

 

実家の父からの

「帰ってきなさい」

のLINEに「了解~」と返信した。

 


返信に〈既読〉がつかないまま

ネットは繋がらなくなった。

 

 

 


日が明けると

 

 

さらに
電気、ガス、水道も昨夜を最後に
今朝はもう使えなくなっていた。

 

 


僕は荷造りして、

一人暮らしのアパートから


実家に帰ることにした。

 

 

 


外では、遠くから
車のクラクションがいくつも聞こえている。